企業での
活用事例

導入企業の声

自主保全士にあらずんば、
社員にあらず
〜一人の落ちこぼれも出すな〜

  • 旭化成ケミカルズ株式会社・鈴鹿事業場(三重県鈴鹿市)
  • TPM推進室室長 野口正雄氏

  • 主要製造品目:サランラップ等の各種フィルム・シート、発泡体製品
  • 受験歴:2002年度より13年連続13回目
  • 延べ合格者総数:1級=約184名、2級=207名(重複合格63名を含む)

自主保全士の取り組みの背景

当事業場では、2001年にTPM活動をキックオフして満14年が経過した。
活動の柱としては、自主保全、計画保全、品質保全、個別改善、設備初期管理、教育訓練、教育改善の7本で進めているが、優秀賞等の賞取りは一切行わずに今日に至っている。
その中でも自主保全活動によるオペレーターの現場力向上は重要な課題であり、突発故障の1/10以下への低減や品質不良ロスや製造コストの低減に寄与してきた。
しかし、自主保全活動の職制モデルがうまく進まず、キックオフ後に44の本番サークルすべてを推進室の小職が直接指導することで、活動を何とか軌道に乗せてきた。
その中で感じたことは自主保全活動に関しての基本的な知識や手法への理解が個々のメンバーで異なっており、十分でないということであった。
そのような折、2002年に自主保全士検定の1級試験が開始されることになり、当事業場からも小職の他、自主保全分科会メンバーが受験して9名が合格した。9名の内、6名が係長以上の職制(以後、職責者)であり、受験後の自主保全分科会で検討し、さらに事業場TPM推進委員会での協議を経て、オペレーター(職長およびワーキングリーダー含む)全員に自主保全士資格の取得を推進することを決定した。

自主保全士の取り組みの現状

自主保全活動を推進する上で、活動にまい進するオペレーターはもちろんのこと、活動を指導、支援する係長以上の職責者も自主保全活動の基本を正しく理解し、実践するためのスキルが必須である。
この基本を確実に理解しているか否かを評価する手段として、自主保全士の資格取得を選択した。あるべき姿は、職責者全員の1級取得、オペレーターについては全員の2級もしくは1級取得である。
自主保全士検定試験の受験は1級を2002年度から、また2級を2003年度から、それぞれ開始。企業会場の設置は2003年度から2014年度まで連続12回実施してきた。資格取得者の累計は1級取得が184名、2級取得が207名で、この内、63名が1・2級の両方を取得している。
2014年度末における自主保全士資格取得率は職責者が100%、職長以下のオペレーターの取得率は97%である。未取得の3%は新入社員等の新人である。
しかしながら、人事異動で職責者が地区外から転入したり、オペレーターも新入社員を採用したりするので、毎年、未取得者が受験している。
目標を100%取得としているので、自主保全士の資格取得への取組みは半永久的に継続しなければならない。
余談であるが、事業場のトップである事業場長からは「一人たりとも、落ちこぼれを出すな!」と檄(げき)が飛んでおり、自主保全士の資格取得推進の実務を担っているTPM推進室としては結構大変である。

自主保全士資格取得推進の三種の神器

(1)受験しやすい、勉強しやすい環境の整備

当事業場を試験の企業会場とし、試験当日が勤務日の人(注:当社は4組3交代で土日・昼夜を問わず連続運転しているので、日曜の試験日でも勤務と重なる人がいる)でも、公用扱いで受験できるようにしている。また、合格者のみに受験料を「資格取得支援金」として本人に返還している。
一方、受験対策指導会(勉強会)はオペレーターの勤務時間外に1回当たり約2時間で、1組当たり6回、4組合わせて計24回実施している。ただし、受講は「自己啓発」であり、手当等の支給は一切ない。

(2)テキスト類の整備と無償配布

2003年から12年間にわたり、受験指導会を継続実施してきたが、この間に受験者に提供するテキストは変遷してきた。ただし、基本となる「自主保全士検定試験 傾向と対策」は初回から変わらず、最新版を受験者全員に無償配布している。
現在、これ以外のテキストとしては学科試験の過去問題集と実技試験の過去問題集をTPM推進室にて毎年編集し直して、配布している。
とくに、実技試験は出題される内容が少しずつ毎年レベルアップしており、さらに、公表される課題の中には過去問題のないものもあり、それに対応して独自に模擬試験を作成している。

(3)愛情あふれる指導スキルに優れた講師

講師はTPM推進室が担当しており、2003年〜2011年度までは小職がたった一人で担当してきた。
2008年度にはオペレーターの自主保全士取得率が80%を超えたが、そこから思うように取得率が伸びない、言い換えれば合格率が大きく低下したのである。そんな時、2010年下期に推進室に転籍した女性スタッフ(伊藤千春氏)が2011年の自主保全士検定試験1級にチャレンジして合格するとともに、翌年からの自主保全士受験指導会の講師に立候補してくれた。
2012年度からの受験指導会の出席率や宿題提出率が100%近くに達して、これに伴って合格率が大幅に上昇したことにより、オペレーターの自主保全士取得率もアップし、遂に昨年は97%になった。
また、2013年度の試験では全国で20名が選ばれる成績優秀者の中に1級の部で当事業場から5名が選ばれた。やはり、講師の質は三種の神器の筆頭の位置すべきものであると実感している。

伊藤千春氏が講師となった授業の風景

自主保全士取得率100%への道は一日にして成らず

2002年の初受験から丸13年間、自主保全士の資格取得の推進を継続してきたが、今日に至るまでの間に幾多の推進施策の修正検討を実施してきた。その中から、読者の皆さんに参考にしていただけそうなものを抜粋して紹介したい。

(1)受験指導会は受講者が参加しやすい時間帯に実施する

当事業場は4組3交代勤務で、1勤者の勤務時間帯が7:30〜15:30、2勤者は15:30〜23:30、3勤者は23:30〜7:30となっている。
当初、受験指導会の時間帯を16:00〜18:00に設定して、1勤者が仕事を終えてから出席できるように考慮したつもりであったが、年々出席率が低下して、2010年には60%台になり、それに伴って、合格率も低下してきた。
原因を探ると、シフトが一巡する12日間の間に1勤は3日間であり、その定時後は職場での安全検討会や自主保全活動等があり、受験指導会に参加しづらい状況であることがわかった。
そこで、受講者に意見を聞いたところ、2勤開始前の13:00〜15:00での実施要望が多かったので、さっそく変更したところ、参加率も上昇し、合格率も回復した。

自主保全士の合格率・取得率の推移



(2)実技試験対策は早目に実施する

昨年度までは、実技試験の課題発表が8月であった。当事業場でも2009年度までは課題発表以降に実技試験の模擬試験を作成して、8月末頃から10月の第一日曜日に実施される試験の直前まで実技試験対策の指導を実施していた。
受講者に聞くと、これでは十分な復習ができないとのことであったので、2010年度からは組別に6回実施する指導会の初回から順次、全範囲にわたる過去問題をすべて説明した。
これによってオペレーターがヒストグラムや管理図等の演習と復習に十分な時間を取ることができて理解が深まり、改善事例の発表資料作成にも大いに役立ったと喜ばれる結果を得たのである。
試験対策だけの勉強では面白くない、実際に役立つ勉強をしてこそ、本来の目的に適うものだと実感した。

(3)指導者が率先垂範で取得する

当事業場では、係長以上の職責者には昇格もしくは転任により、新たに製造係長以上のポストについた場合、就任から2年以内に自主保全士1級の資格取得を義務付けている。
これによって自主保全活動全般を理解するとともに、未取得のオペレーターへの資格取得推進の必要性を認識し、積極的にバックアップしてもらっている。このことが自主保全活動を継続的に展開するうえで、きわめて有効であると考えている。

自主保全士合格がゴールではない

当社に限らず、多くの企業ではオペレーターに必要な資格を順次取得させていると推察する。当事業場でも職場によって必要な資格の種類は異なるが、危険物取扱者や高圧ガス製造保安責任者等、さまざまな資格取得を必須としている。
一方、自主保全活動を継続する上でも自主保全士資格だけでは十分とは言えない。当事業場においては、第3ステップからは機械保全技能士機械系1・2級、第5ステップからは品質管理検定2・3級の資格取得を推奨している。
当然、TPM推進室(小職と女性スタッフ2名)は率先垂範すべく、全員が3種類の資格をすべて取得している。
オペレーターの機械保全技能士の取得率は2014年度末で53%であり、毎年好成績で、知事賞を始めとして多くの賞を獲得している。今後100%取得に向けてさらに促進していく計画である。
新人の入社、転入があるので、100%取得はあり得ないかも知れないが、当事業場は、それでも100%取得を目指して歩み続けるつもりである。

自主保全活動のステップと資格取得計画

資格別、階層別取得率

機械保全技能士検定試験の成績優秀表彰受賞実績

※本記事は2015年5月掲載時の情報です。