企業での
活用事例

導入企業の声

技術部門の自主保全士活用事例

  • トヨタ自動車株式会社 先進技術カンパニー(愛知県豊田市)
  • 技術管理部部長 平岩恒二氏

日本プラントメンテナンス協会(JIPM)では、2001年度に「自主保全士」の資格認定制度を創設し、製造オペレーターに求められる知識と技能に関して、製造部門が受け持つ保全の一部の機能や管理技術を客観的に評価するための尺度を定め、この評価尺度に基づき、検定試験および通信教育を通じて、「自主保全士」を認定してきた。これまでに多くの企業に導入・活用をいただいているが、資格の性格上、第一線オペレーターへの事例が中心で、技術部門の導入事例は、これまであまり例がなかった。
そのような中、トヨタ自動車株式会社の技術部門では、近年、自主保全士資格の取得に力を入れ、顕著な効果をあげているという。そこで、同社の平岩恒二・先進技術開発カンパニー 技術管理部部長をはじめとする技術管理部の方々に、そのねらいと成果についてうかがった。

——技術部門として自主保全士の導入・活用を考えられた背景についてお聞かせいただけますか。

われわれにとって、品質は生命線です。品質は決して製造現場だけで作り込まれるのではなく、開発現場でも作りこまれていくものです。われわれ開発側がしっかりとした品質のものを作り上げ、後工程に渡すというのが当社の基本であり、そういった意味で開発品やその評価データの品質向上に直結する設備保全に対して、もっと自主的に取り組んでいく必要があると感じていました。
そんな中、2013年に開発設備に関する不具合が顕在化し、それをきっかけに、いま一度、設備保全に関する全員の意識を高めようと考え、自主保全士制度の導入を決定しました。

——対象となる社員はどのような方でしょうか、どのように選抜されていますか。

基本的には希望者です。われわれが資格制度の紹介を行い、希望者に受験してもらうこととしています。開発現場の実験や実証を担うオペレーターの人たちが対象となります。
昨年までに1級、2級合わせて307人が取得しており、若手からベテランまで年齢層も幅広くなっています。

——技術部門のオペレーターの場合、通常の製造部門のオペレーターとは、期待されるものは違ってくると思いますが。

製造部門への期待値と違いはないと考えています。開発のための設備ですので、設備が止まってしまうと時間的なロスが発生します。これは、開発スケジュールに影響を及ぼしますので、結果的に開発の品質を落としてしまうことにつながります。そのような状態を保全担当者だけに任せておくわけにはいきません。日々設備に触れるオペレーターが、自分自身の感度を高めることで不具合の前兆や予兆に気づき、結果として未然防止型の活動を実現、開発の品質を向上させることが望ましいと考えます。
たとえばシャシーダイナモなど車両を評価する重要な設備において、オペレーターが気づくべきわずかな不具合の前兆を見逃したために故障し、長期間にわたって稼働できないといったトラブルが顕在化したことも過去にはありました。オペレーターが初期の保全を確実に行うことにより、このようなトラブルも減少していくことが期待されます。
また、われわれの開発現場からアウトプットされたデータの信頼性や精度が十分かどうかを確認する上でも、設備保全が重要になってきます。単に設備を稼働させるだけでなく、必要な性能を確保するために正しく稼働させる必要があるためです。

——開発部門は製造部門と違って、直接お客様とは接していらっしゃいませんが、その意味でやりにくさというのはありませんか。

開発を担当しているメンバーの一員であるわれわれのお客様は、製造の準備をする人たち、生産をする人たち、完成した車を売る人たち、そして買ってくださるお客様です。自工程の後の人たちは、すべてお客様だという認識ですので、そこにやりにくさはありません。

——たとえば勉強会や模擬試験の実施等、受験対策は実施されていますか。また、報奨や人事評価との連動はあるのでしょうか。

受験希望者へは、年に1回、2日間、講義や過去の試験問題の解説などを、技術部門の保全部署である保全管理課の自主保全士有資格者が行っています。これは試験対策という側面もありますが、自主保全に対する意識を高めてもらうというねらいもあります。
これらは、あくまで自己啓発の一環ですので、受験も自由で、とくに報奨や人事評価には直接結びつけてはいません。ただ、資格取得に取り組むことで仕事や設備に対する意識が変わっていけば、おのずとその人の評価はあがっていくと思います。
資格取得後のフォローアップ研修のようなものも、現在は行っていませんが、今後考えて行きたいと思います。

——スタートさせて3年ということですが、この間、資格を取得された方をご覧になって「あ、こういうところが変わったな」というような有形無形の効果があると思いますが、どのようなことをお感じになりますか。

やはり、意識の部分が大きいと思います。自分の設備は自分がしっかり守る、設備の専門家だけに任せてはおけないという意識です。自主保全士の資格を取得することで、自分が担当している設備だけでなく、他の設備についても幅広く考えることができているのも大きいのではないかと思います。
効果の一つに、ミスによる稼働停止件数半減があります。誤操作によるミスを減らすために、たとえば始業点検手順を自主的に作成する等の予防的な考えが芽生えてきています。これはオペレーターには自分たちの設備がいかに止まらないように、当たり前に動くようにするにはどうすればいいのか、故障の未然防止はどうすればいいのかという意識が芽生えてきていることの表れだと思います。
このように風土が変化し、自らの力で考え、行動することができるようになっているのも自主保全士の資格取得の効果だと思っております。
また、多くの人員が自主保全士資格を取得することにより、専門用語への理解も深まり、使うべき用語の共通化につながってきています。そうすることにより、違う設備担当者間でのコミュニケーションが活性化し、会話もスムーズになり、情報を横展開しやすくなるという付随的なメリットもあります。
何もなくて当たり前、何か起きたら大問題という世界ですから、最終的に個々がどれだけ未然防止の意識を高められるかというのが職場としてのポイントだと思います。

——JIPMでは「自主保全士基本ガイド」等で、自主保全士に求められる4つの能力等を提示しています。これらをご覧になって「この部分をもう少し整理するといい」など、現在のプログラムについての率直なご意見をいただければと思います。

いわゆるスキルを身につけるとか、テストで高い点数を取るとかということだけではなく、モノづくりの現場の人間として、全員参加で不具合の前兆を見つけて未然防止をして、問題をつぶし込んでいくということの大切さは常に感じています。
だからこそ、自主保全士を通じて、自分たちで不具合を見つけるという意識の底上げに、職場としてよりいっそう取り組んでいきたいと思います。そのために「製造だけでなく開発の品質も重要」ということを発信し続けたいと思います。
われわれは資格取得により、メンバーのモチベーションが高まることを期待しています。
そのためにはJIPMが運営している機械保全技能士のように、国家資格に匹敵するステータスを付与していただけるとありがたいと考えています。

——どうしても、われわれは、技術部というと、どういう仕事をされているのか、具体的なイメージが湧かない部分があります。その中で、どのように自主保全士を導入して活用されているのかというのがまず疑問としてありました。今日、いろいろお話を聞いて、イメージが固まってまいりました。 本日はお忙しいところ、ありがとうございました。

※本記事は2016年12月掲載時の情報です。